毎日新聞の連載記事です。
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一人一人が意識持つべきだ
名古屋市緑区有松地区の旧東海道沿いには古い建物が建ち並ぶ。休日に散歩していると、1軒の建物が工事用の白い幕に覆われているのを見つけた。中では、古い建物が壊されようとしていた。
区役所に問い合わせてみた。建物は江戸時代に建った町家。老朽化が進み、家主は壊して賃貸アパートを建てることを決めた。街並み整備に取り組む「有松まちづくりの会」がそれを知り、建物の保存を訴えて家主と話し合った。その結果、アパート建設はやめ、これまでとほぼ同じ外観で再建し、福祉団体に貸し出されることになったという。
建物のすぐ近くに住むまちづくりの会の副会長、竹田嘉兵衛さん(69)に話を聞いた。
竹田さんは「有松絞」の製造会社社長。会社や自宅の建物の一部は市の指定文化財で、江戸時代からの建築物もある。
畳の上に正座して竹田さんと向き合った。「完全な保存は無理でしたが、外観は残るので一安心です」。竹田さんは穏やかな口調で話し始めた。建物が壊されると知ったのは7月3日。4日後に工事が始まると聞いて仰天した。必死に市や家主と連絡をとり、何とか再建にこぎつけた。
ただ今後、会にはカンパの活動が待っている。工事費の大半は家主が出すが、市が街並み保存事業として上限500万円を補助、さらに会が700万円を負担することでまとまったからだ。
話を聞きながら、私は昔の建物の保存や街並み整備の難しさを改めて思い知った。歴史的な有松の街並みを維持するためなら、市はもっと補助金を出してもいいのでは。しかし、財源不足が叫ばれる中で個人の建物に補助金を出すことが許されるのか。そんな私の悩みに答えるように竹田さんは言った。「個人の家も街並みの一部です。自分の家を管理して、一人一人が街並みを作る意識を持つべきでは」
行政の役割ばかりを考えていた私は、はっとした。江戸時代の建物に住み続ける竹田さんが言うと説得力がある。竹田さんは自分の家を街並みの一部に溶け込ませる努力をしつつ、さらに他人の建物の保存にも気を配る。竹田さんのような意識を持つ日本人はどれほどいるだろうか。
電車で有松を後にした。窓の外に名古屋中心部の高層ビルや雑然とした街並みを見ながら、有松の街並みを思い出してほっとする自分がいた。
えんぴつ日記2009:/8止 旧東海道・有松の街並み保存 /愛知 - 毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/area/aichi/news/20091225ddlk23070219000c.html
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