名古屋の伝統工芸「有松鳴海絞」の柄をプリントした浴衣が、本物よりずっと安くインターネットで売られている。産地以外の業者が柄を模倣したとみられるが、一季節限りの柄はわざわざ意匠登録しておらず、違法性を問えるかどうかは微妙。産地の業者は「職人技で作り出される柄を簡単にコピーされるとやりきれない」ともどかしがる。
「去年うちで作った浴衣地の柄だ」。名古屋市緑区の絞り製造業「近喜(こんき)」の近藤久人社長(56)は今夏、一目では見分けがつかないほどそっくりな浴衣がネットで売られているのに気付いた。
有松鳴海絞の技法の一つ「縫い絞り」で花を表現し、筋のような「柳絞り」をちりばめたデザイン。複数の絞り職人の手で加工したもので仕立て代も含めると浴衣一着で10万円近くになる。
一方、ネットで販売されているプリント浴衣は2万円ほど。花と花の間隔が狭いなど微妙な違いはあるものの、染料のにじみ具合まで似通っていた。
絞りは布を糸でくくるなどして、染料が入り込まない部分をつくることで模様を描く伝統技法。プリントは表面に着色するだけなので絞り独特の凹凸が生地になく、絞りとプリントの見分けは簡単に付く。
「絞り風」と称してプリント浴衣を製造していた京都の呉服問屋は、本紙の取材に「図案家に依頼する際に渡した参考資料の中に、近喜の製品があったのだと思う。アレンジしているのでコピーではない」と説明。その上で「指摘の商品はできる限り販売を止めたい」と話した。
近喜の近藤社長によると、ネット上では他にも過去1、2年の間に近喜が販売した柄に酷似した浴衣が複数、出品されている。
衣服などのデザインに意匠権を設定して保護するには、特許庁に出願して登録する必要があり、1件につき数万円の費用がかかる。愛知県絞工業組合は「有松鳴海絞」の名称を商標登録しているが、絞りの柄に関して意匠登録する加盟業者はほとんどないという。
加盟業者の一つ「野々山絞り」(愛知県みよし市)も今夏、自社製品の柄をほぼそのままプリント浴衣に流用されたが、放置しているのが実情だ。野々山元春さん(40)は「相手に『絞り風の柄だ』と言い張られるとどうしようもない。何十万円も弁護士費用をかけて争うメリットも感じられない」と悔しがる。
近藤社長は「有松鳴海絞が注目されているということかもしれないが、苦労して生み出している柄。毎年のようにコピーされるようだと、つらい」と話す。
■知的財産権に詳しい広田美穂弁理士の話:デザインの権利である意匠権は特許庁への登録が必要。著作権にその必要はないが、基本的には1点限りの美術品が対象で、浴衣のように多数販売される実用品の柄を保護するのは難しい。あまりに酷似した商品は不正競争防止法違反に当たる可能性もあるので、差し止めや損害賠償請求を考えるのも一つの手段だ。

中日新聞:有松鳴海絞模倣の浴衣 ネット流通 業者「やりきれない」:社会(CHUNICHI Web)
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2014072190094355.html

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